コクヨの家族見守りサービス「ハローファミリー」。その開発チームが、「仕事・学び・遊び」に奮闘中の親子を応援するため、子育てにIoTデバイスを取り入れるメリットや、効果的な使い方について、教育の専門家にうかがうシリーズ第2弾です。
今回は、幼児教育番組『しまじろうのわお!』の監修をはじめ、ハッピーセット(日本マクドナルド)の玩具など、さまざまな教育メディアの開発に携わってこられた沢井佳子先生にお話をうかがいました。
チャイルド・ラボ所長 一般社団法人日本こども成育協会理事。お茶の水女子大学大学院修了、専攻は発達心理学、認知心理学。2000年に個人事務所のチャイルド・ラボを設立して以来、所長としてテレビ番組、デジタルアプリ、絵本やワークブック、玩具等の教育・学習コンテンツの開発と監修に携わる。
監修を務めるテレビ番組『しまじろうのわお!』(テレビ東京系列)は、ハンブルグワールド・メディア・フェスティバル教育部門の大賞を受賞(2013)。他にも国際エミー賞ノミネート(2016)、アジアテレビ賞受賞(2018, 2023)、日本賞 幼児向け番組優秀賞受賞(2019,2021)など、国内外から高い評価を得た。 また、子育て世代なら一度はお世話になったことがある、あのハッピーセットのおもちゃ(日本マクドナルド)を監修。子どもたちがワクワクしながら学べるコンテンツを生み出し、多くの子どもたちを魅了しつづけている。
ハロファミ:予定管理ツールを上手に使うには「親のひと工夫」がいるのかなと感じています。リストを作っても、子どもが見向きもしない!というお声も届いていて……。子どもをやる気にさせたり、自主性を育てるコツがあれば教えていただきたいです。
沢井:そもそも「火曜日の5時になったらピアノのおけいこに行く」といった時間管理を子どもがひとりできるようになるのは、早くても8歳くらいからであることは、頭に入れておくといいかもしれませんね。それ以前の段階では、できないことに焦らないでほしいです。
低学年の子どもにとって時間はとても曖昧なものなんです。時間の概念や感覚を理解できるようになるためにも、生活習慣を身につけることはすごく役に立ちます。いちばん影響するのは食事の習慣です。朝昼晩と決まった時間に食事をとることで、時間が刻まれる感覚を養うことができる。
さらに夕食のあとお風呂に入って、着替えをしたら、そろそろ寝る時間なんだ、目が覚めたらまた朝がはじまるんだという、繰り返しの中で「これが来たら、次にこれが来る」という物事の規則的な並び方、つまり「系列」の論理を学んだりする。
沢井:また、リストをこなしていくこと自体が楽しいことなんだという感覚を子どもに持ってもらうことも大事だと思います。お留守番のときに「宿題をやる」「習い事に行く」という予定を組むじゃなく、お休みの日に「お父さんと一緒にゲームをやる」とか「みんなで映画を観る」など、
子どもが喜ぶ家族団らんの予定もリストにする。そうやって日ごろから「リストをこなす」シミュレーションをしておくことが大事だと思います。いきなり本番というのは大人でも難しいですからね。
あるいは余裕があるときに、お母さんとおうちで「ごっこ遊び」などをして、ひとりで習い事へ行くことを、遊びとして練習しておくのもいいでしょう。
着々とやるべきことをやっていけば、楽しいことが待っているという経験を、子どもが生活の中で重ねていけば、やるべきこともワクワクしながらできるようになると思います。
沢井:時間の知覚や感覚が根付く以前の段階にあるお子さんには、「絵や図形」が時間の理解を助けるのに役立つかもしれません。少し手間はかかりますが「はろもに」の「やることリスト」にノートやワークシートといった紙のツールをつけ加えるのがおすすめです。
「習い事にでかけるまでは30分あるよ」「最初の10分でおやつを食べよう」「次の5分で持ち物を用意するよ」「次の15分で着替えをしよう」とイラストや帯グラフのようなもので図式化してあげると、子どもはゴールまでの段取りと、そこにかける時間の長さを視覚的に理解しやすいと思います。
ハロファミ:ハロファミ1周年を記念して、「新入学応援セット」(※)というものを作りました。シールを貼って作る「わくわくやることブック」や「けいかくシート」が入っています。まだデジタルツールに慣れていないお子さんにとって、紙のツールと組み合わせるのはいいアイデアですよね。
リストを自分で手を動かしてつくることで、視覚的に1日の流れを理解できたり、「シールを貼るのが楽しい!」とやる気になってくれたりするのではないかと期待しています。
※「Hello! Family.」公式サイトで2024年3月25日以降にハローファミリー製品(はろここ専用ケースを除く)をご購入された方を対象に、新入学準備に使える特別ノベルティを配布いたします。コクヨステーショナリー楽天市場店での購入された方は準備が整い次第、配布します。先着1,000セット限定となっております。
ハロファミ:「親が見ていなくてもちゃんとやってほしい」なんて、そもそも子どもに多くのことを求めすぎているのかもしれない……という反省もありつつ、おたずねします。宿題や親との約束事など、子どもにやるべきことをやってもらうために、親はどんなサポートをすればいいでしょうか。とくに、働く親へのアドバイスをいただけるとありがたいです。
沢井:ここまで、子どもが生活習慣を身につけることは「数の概念」「系列などの論理」「出来事の意味や解釈」といった「考える力」を養う基礎となることをお伝えしてきました。今ご質問にあった「宿題をやる」など、親との約束事を守ることも、「考える力」の延長線上にあるものです。
そして、改めてお伝えしたいのは「考える力」のベースには愛着関係があるということです。愛着関係というのは簡単に言うと、子どもが、お父さんやお母さんを大好きで、信頼しているということです。
沢井:人は、愛着関係の中で学ぶようにできています。発達心理学の言葉では「3項関係の中で学ぶ」と言うのですが、「子ども・親・共に注意を向ける対象」の三者が作る三角形が、子どもの学びの場になるんです。大好きな人と一緒に同じ物を見て、声を聴き、大好きな人のふるまいを見て、言葉や感情、ふるまいを学習するということ。
たとえば、テレビを見ながら、お母さんが大笑いすると、言葉がわからなかったとしても、テレビに映った、その出来事は楽しいことなんだと理解する。自分が物を投げたときにお母さんがしかめっ面をすることで、この行動は良くないことなんだと学ぶ。
大好きな人が言葉や行動で、まわりの物や出来事を解釈をしてくれるから、意味や論理を学ぶことができるわけです。つまり、子どもの中に「大好き!」がないと認知は発達していかないということなのです。
沢井:「ハロファミ」のコンセプトをうかがったとき、この、一番大事な愛着関係の形成をサポートできるのではないかと感じました。つまり、家族の愛を支え、その結果、考える力、論理力を支えていくということです。
目の前にいなくても、「お父さんは今、会社にいるんだなあ」と思い浮かべたり、置き手紙から、お母さんの思いを感じたりする能力を「表象能力」といいますが、それは3歳ごろから5歳ごろまでの間に大きく発達すると考えられています。離れていてもお父さんお母さんとつながっている感覚を持てるハロファミのサービスは、いわば、愛着をバーチャルに表現できるものなんです。
沢井:話を戻しますと、子どもに約束を守ってもらうにはどうしたらいいか。「子どもが約束を守る」のは責任感が芽生えているからです。その前段階として、責任というものを親の態度から学んでいる必要があります。
「親がお手本になって、子どもに責任感を学ばせる」と言うとすごく大変なこと、息の詰まることに感じるかもしれませんが、子どもに応答するだけでいいんです。
責任という言葉は英語でresponsibilityと言いますよね。分解すると「response(応答)する能力」ということ。親からていねいな応答をもらうことで、子どもは「相手に応える責任感」を学んでいくんです。ボタンを押すだけでメッセージを随時送り合える、IoTデバイスの応答性がここでも活きてくると思います。
親子間のやりとりから得られる学びは、「大好きな人を困らせたくない」「大好きな人を喜ばせたい」という、他者への思いやりにつながっていく。そうやって子どもは、人との約束を守れるようになるんですね。
ハロファミ:ハロファミのサービスを使いはじめる低学年のお子さんたちが、ちょうど「約束を守る」など、人を思いやる気持ちを学ぶ入り口に立っているということを先生のお話しから知ることができました。「8歳なのにこれができないのはおかしい!」なんて決めつけずに、ひとりひとりの成長と発達のスピードを尊重する、ハロファミの使い方を提案していただけたことに感謝しています。 最後に、ハロファミにできることは何か、あらためて先生のお考えをお聞かせいただけますか?
沢井:はい、ハロファミができること…を、このボードに書くんですね。どうしましょう?やっぱり、これかな……。
ハロファミ:沢井先生、ありがとうござました。