コクヨの家族見守りサービス「ハローファミリー」。その開発チームが、仕事に、学びに、遊びに奮闘中の親子を応援するため、子育てにIoTデバイスを取り入れるメリットや、効果的な使い方を教育の専門家にうかがうシリーズ第4弾です。
今回は、大阪府にて児童発達支援・放課後等デイサービス「すたぁりっと」を運営する、株式会社シーアイ・パートナーズの代表取締役、家住教志さんと、エリアマネージャーの中筋さんにお話をうかがいました。聴覚障害をもつご長女の誕生が創業のきっかけだったという家住さん。障がいがあっても進学や就職時の子どもの選択肢を狭めたくない、全力で応援したいという親心から生まれた「すたぁりっと」の哲学に、ハロファミはたくさんのヒントをいただきました。
大学時代に出会ったロシア人の妻と結婚し、重度聴覚障がいの長女を授かる。妻子を支える ため2度の転職を経験。障がいを持つ子どもの親の働きづらさを自分自身が感じたこと、障がいを理由に進学や就職に行き詰まる子どもたちを目の当たりにしたことで、2016年に「すたぁりっと」を創設。ソーシャルスキルをはじめとするキャリア教育など、就労支援を軸に据えた高度な療育が注目を集めている。現在は、同じ志を持つ事業所をバックアップし、業界全体を成長させる取り組みも行っている。
ハロファミ:今年5月に、シーアイ・パートナーズさんとのご縁をいただき、発達障がいのあるお子様や「すたぁりっと」で働く方々をサポートする実証実験を行うことができました。「次世代の家族のサポート」を目標に掲げてきたハロファミですが、障がいをお持ちの方、何らかの理由で社会参加にハードルを感じている方の自立支援にも貢献できるという手ごたえを感じることができ、ご協力いただいた皆様にとても感謝しています。
家住教志さん(以下、家住):実証実験に参加された方からは、子どもをチャレンジさせる良い機会になったというポジティブな声が届いています。就職が決まり、4月から福祉作業所へ自分で通う(=自力通所)予定の高校3年生の女の子がいるのですが、「はろここ」を持ってはじめてバスに乗り、通所することができました。その日の彼女の顔は、本当に誇らしげで、うれしそうでした。
ハロファミ:家住さん・中筋さんは、今回の実証実験に参加したメリットは、どんなところにあったと感じておられますか?
中筋:高校1年生の自閉症スペクトラムの男の子は、「はろたぐ」をつけただけで日誌を忘れることが60%も減りました。「はろたぐ」のおかげで「日誌は忘れてはいけないものなんだ」という意識づけができたのだと思います。本来は「紛失」や「置き忘れ」を防止するものだと思うのですが、持っていくことへの注意喚起にもなる。意外な効果があったなと、私たちも驚きました。
家住:「すたぁりっと」に通っている子どもたちや保護者の方に、テクノロジーの力を借りれば次のステップに挑戦できるということをお伝えできたのもメリットの一つだったと思っています。 これだけITが浸透している社会で、デジタルデバイスを避けて生きていくことはできませんよね。「はろここ」を持って出かければ家族に居場所を知ってもらえて安心だとか、「はろたぐ」で忘れ物を減らすことができるという、最新のIoTデバイスの使い方やメリットを、本人やご家族に実感してもらえたのではないかと思います。
(保護者の声)
ハロファミ:聴覚障がいをお持ちのお子さんの存在が「すたぁりっと」創設のきっかけであったとうかがっています。お子さんのためにどのような課題を解決したいと思われたのでしょうか。
家住:私には2人娘がおり、2人とも聴覚障がいを持っています。親として子どもの預け先を探していたときに、安心できる事業所がなかったというのが「すたぁりっと」を創った動機でした。親は、子どもの障がいについて専門書などを読んでいろいろ勉強します。でも施設の方に「脳の発達段階を考慮すると、2歳までに言語学習がある程度進んでいる必要がありますが、娘にはどんな学習をさせるのが望ましいですか?」などと質問してもまったく話が通じなくてショックを受けました。「ここには専門家はいないんだ」と感じたんです。
家住:「療育」って本来はその名のとおり「医療」と「教育」の間をつなぐ、高度な専門性が必要な仕事だと思うんです。でも実際は、障がいのある子どもには何もさせず、預かることだけが目的になっている事業所も多い。業界全体を見ても、医療や教育の専門家は非常に少なく、それが低賃金にもつながっている。だから私たちは「放課後等デイサービス」をただの預かりではなく、「人を育てる事業」にすると決めました。最近は、志を同じくする事業所とパートナーになり、経営をバックアップする取り組みも始めています。専門性を持った優秀な人材が働ける業界にしたいですね。
ハロファミ:障がいをお持ちの方の就労支援では、具体的にどのような取り組みをされていますか?
中筋:私たちのやってきたことをシンプルに言うと「上手に生きるためのスキル」を子どもたちに伝えるということです。一般的にはソーシャルスキルと言われたりしますが、障がいを持つ方が社会に出るときに最初につまずくのは、「他者と関係を上手に作れない」ということなんです。
中筋:「こういうことをしたら友達に嫌われる」とか「人を傷つけないように言葉を選ぶ」といった基本的なコミュニケーションスキルを子どもたちは学校生活や放課後に友達と遊びながら自然と身に着けていきます。でも、障がいのある子は、そもそも他者との関わりを制限されているケースが多い。
ハロファミ:すごいですね。私も学びたいです。
家住:最初に「すたぁりっと」に通所してくれた女性は、支援学校からきっと就職できないだろうと言われて来ました。でも無事に就職し、7年ほど働いたのちに一般の警察官と出会って結婚しました。実は先日彼女から結婚式に招待いただき、その日の家族だけのパーティーにも招待してもらったんです。「人生を変えてくれてありがとう」と言ってもらったんですが、愛する人に出会って家庭を持つというあたりまえの人生に、一人でも多くの子どもたちがたどり着けるようにしたい。そのために必要なのはやっぱり「自分の気持ちを上手に人に伝えること」だと思っています。
ハロファミ:障がいのあるなしに関わらず、誰にとっても大切なスキルですよね。
家住:そうなんです。でも、言語や社会性は、自然に身に着くものと考えられがちです。学校でもコミュニケーションスキルを体系的に教えたりはしませんよね。そこを「すたぁりっと」で担うことができれば、就労の大きなアドバンテージになると考えています。専門家とつながることも大事なので、近畿大学にご協力いただいて、共同でプログラムを開発しました。
中筋:子どもたちの経験値を増やすということも大事にしています。「まるで旅行クラブみたいだ」と言われたこともあるんですが、みんなで温泉に行ったりもします。仕事に就いたときのために、余暇の楽しさを知っておいて欲しいんですよね。それが働く意欲にもつながるので。
夏休みには花火大会も企画しました。夏休みの思い出が「デイに通った」だけで終わってしまうのはおかしいと思っているからです。学校ではクラスメイトが「花火大会に行った」なんて話している。そこで会話に入れないのは辛いですよね。多様な経験を積んでおくことは、他者とのコミュニケーションのきっかけとしても大切なんです。
ハロファミ:学校でも、一般的な学童でも、そこまでのサポートは受けられませんよね。「すたぁりっと」で学べるというのは、本当にアドバンテージですね。
ハロファミ:「こういうものがあればいいなと探していた」という保護者からのお声をいただきました。うれしかった一方で、これまでの私たちの発信が足りていなかったという反省もあります。
家住:「障がいをもつ子どもの自力通所をサポートする」専用のデバイスってないですよね。だから保護者の方は自分でアンテナを張って使えそうなものはないかと日々探しておられるのですが、世の中に商品があふれすぎていて、なかなか見つけられないんですよね。 いろいろなツールがあることは知っていても、自分の子どもにどう生かせるかということまでは、なかなかたどり着けないという方が多いと思います。
中筋:今回の実験で、保護者の方にデバイスをお渡しするとき、わたしたちは「お子さんのこういう課題を、こういう使い方でサポートできるものなので使ってみてください」とお一人お一人にご説明しました。それで「はろぽち」を見たとき、「遅刻」の対策になるとピンときたんです。
中筋:子どもが遅刻しないで学校や作業所にたどり着けるようにすることも、私たちの支援の一環ですが、今までは、子どもが何時に家を出たのかを保護者の方に教えてもらっていました。直接、確認する方法がなかったんですよね。でも「いってきます」の合図として「はろぽち」を押してもらうことで、リアルタイムで「時間通りに家を出る」ことをサポートできました。その結果、遅刻率は半分になったんです。
家住:保護者は「どうやってこの子に足りないものを補うか」をいつも考えていると思います。ですから、ハロファミさんのようなチームが、機能だけでなく、使い方までデザインし、それを発信すれば、悩んでいる保護者に必ず届くと思うんです。
ハロファミ: ありがとうございます。それでは最後に、パネルへのコメントをお願いします。ハロファミにどんなメリットがあるか、家住さんの視点で今一度書き入れていただければと思います。
家住:わかりました。子どもたちにメリットがあったのはもちろんですが、今回は、不安から一歩踏み出せなかった保護者へのメリットが大きかったと感じるんですよね。だから、これですかね。
ハロファミは、親の「勇気」を引き出す。
ハロファミ:家住さん、中筋さん、ありがとうございました。
キャプション/パネルの作成は「すたぁりっと」スタッフの中筋さん(写真:右)にも手伝っていただきました。
中筋さんには、今回の実証実験における現場の声をまとめていただくなど、大変お世話になりました。
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