2023年3月、コクヨの見守りIoT事業「Hello! Family.」(以下、ハロファミ)がスタートしました。ハロファミは、第1弾として「はろここ」「はろたぐ」、第2弾として「はろもに」「はろぽち」、これまでに4つのデバイスを世に送り出してきました。
第1回目は、ハロファミ開発リーダーの山本容子の思いをお届けします。
山本:長男が3年生になった頃「学童を辞めたい」と言い出したんです。でも、その思いを受け止められない自分がいて……。「学童へ行っててくれないと困る」と言ってしまったんです。当然、長男とはケンカになりました。
そして、放課後に友達と遊ぶ約束をして、ワクワクしていた自分の子ども時代のことを思い出しました。自分が不安だからといって、子どもの楽しみを奪っていいのだろうか。私は、そんなお母さんになりたいのだろうかと自問自答しました。
子育てに自信があるわけではまったくありません。でも、たったひとつだけ信念を持ってやってきたことが私にはありました。それは「子どもに自己決定させる」ということだったんです。
子どもが料理がしたいと言えば、すごく小さい頃から包丁を使わせたりしました。子どもが自分でケーキを焼こうとして大失敗したこともあった。心の中では「あぁ……キッチンがめちゃくちゃに……」と泣きながらも、子どもの「やりたい」を親として応援してきたつもりでした。
それなのに「学童を辞めたい」という子どもの自己決定を尊重できなかった。そこに、我ながらがっかりしてしまったんですよね。
どうしたら安心して子どもを留守番させられるだろうと考えました。GPSやモニターで子どもの一挙手一投足がつねにわかりさえすれば安心できるのだろうか。でも、子どもには「親にずっと監視されている」なんて感じさせたくない。
その葛藤の中で気づいたのが、親にとっての安心というのは、子どもが親を必要としている時に気づいてあげられること。そういう時にこそ助けになれること。 安心安全って、子どもの生活のすべてを親が支配することじゃない。子どもが安心してありのままでいられるということなんじゃないかと思いました。
そして、「見守り」というのは、子どもの行動が大まかに把握できてさえいればじゅうぶん成立するものだということにも気づきました。子どもから「公園に行って友達と遊んできた」くらいの報告さえあれば、親は安心できる。それくらいが見守りのちょうどいい距離感なんじゃないかなと思ったんです。
ハロファミを「監視ツール」にはしない、という思いでずっとやってきたのは、こうした自分の子育て経験によるところが大きいと思います。
山本:7年前、双子の女の子を授かったとき、仕事と子育てをスマートに両立するのは自分には無理だと心底思いました。どうあがいても物理的に時間が足りない。
幸い、夫や両親のサポートがあり、家事の面ではすごく助けてもらっていましたが、子どもとのコミュニケーションの時間が全然足りていないことを実感していました。
それなのに、帰宅後に私が最初に口にする言葉は「宿題やったの?」「なんでゲームしてるの!」なんですよね。絵にかいたようなガミガミママだったと思います。
「ママは仕事のほうが大事なんでしょ」と子どもに言われることもしょっちゅう。子どもとの関係は最悪だったと思います。
そんな状況の中で、なんとか子どもとの関係を修復したい。楽しい対話の時間を作りたいと試行錯誤する中で生まれたのがハロファミの構想でした。
ハロファミを使っていちばん変わったのは、私自身の子どもへの態度だと思います。 子どもがどんな一日を過ごしていたか、帰宅前からおよそわかっているから、玄関を開けた途端にガミガミ言うことがまずなくなりました。
「今日、遊びに行く前に宿題やってたね、えらいじゃん」と子どもの頑張りを認めるポジティブな会話ができるようになったんです。
そして、思いも寄らない副産物もありました。
「ママはまだ会社にいる」「今電車に乗った」など、子どもにも、私の居場所や一日の行動が把握できるようになったことで、子どもが「仕事頑張ってね」と言ってくれるようになったんです。
離れていても子どもを見守りたい、サポートしたいと思って作った商品だったのに、私のほうが子どもに応援されていることに気づきました。
あれもこれも完璧にやらなきゃと焦ってばかりいたのですが、子育てって親がひとりで背負わなくていいんだと気づくことができたんです。たくさんの人の力を借りて、親子で一緒に成長していけばいい。みんなで強い家族になっていけばいいんだって思えるようになりました。
育児休業から復帰後、自分の働き方にずっと迷いがありましたが、ハロファミのおかげで家族をつなぎ直すことができ、その安心感もあって、難しい仕事に挑戦する勇気も湧いてきました。今は、新しくできた事業部のユニットリーダーをしています。
仕事と家庭のバランスを取るのにはいまだに苦労してばかりですが、自分の夢も、家族の幸せも、両方あきらめない気持ちを、ハロファミが私にくれました。